操体バランス協会
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介護雑感U

《介護の勘違い》

 エアーマットとギャッヂベッドで介護が楽になる?

寝たきりになって、同じ部位が長時間圧迫され続けると、血行障害を起こして皮膚に炎症が生じます。これが床ずれです。これを予防するには2時間毎に体位を変換するのですが、これでは介護する人が夜も眠れず大変です。そこでエアーマットの登場です。エアーマットは床ずれを予防するための介護用具で、局所的にかかる体圧を分散させる機能があります。“体圧を分散させる”ことは、“動きを吸収してしまう”ことでもあるため、オムツ交換などの介護はしづらくなりますし、筋力の弱い人は自力で寝返りが出来なくなります。床ずれが出来にくいから・・・と体位変換を怠り、自力でも全く動かないで寝ていると、沈下性肺炎を起こし、痰が増えてゼーゼーしたり発熱したりします。寝たきりの弊害はその他にもいろいろ有るので、「寝たきりはいけません。起こしましょう。」と言われるとギャッヂベッドの登場です。ギャッヂベッドは上半身を楽に起こす事が出来ますが、生理学的に正しい座位ではありません。起こされた瞬間は体圧の掛かる位置が変わって気分が良いのですが、そのうちに腰がだるくなり、膝が曲がって来て・・・その膝が左右のどちらかに傾いて、身体もずり下がり・・・身体が捻れて、なんとも窮屈そうな格好になって行きます。それでも“平らに寝かせておく事は悪である”とばかりに1日中ギャッヂアップしていると、あの特養で見たお婆さん達が出来上がるのです。 “長時間同じ姿勢にしておく事が悪”であって、エアーマットやギャッヂベッドの有無に係わらず、その時その時でどうしたら楽? まさに操体法の考え方でその人の体力や苦痛の度合いに合わせて楽な姿勢をとらせてあげる事が大切なのです。エアーマットやギャッヂベッドはそれを補助する手段であって、決して介護の大変さをすべて解決してくれる魔法の杖ではありません。目的と手段を正しくわきまえないと、なんとも不思議な格好で拘縮・硬直し、益々介護がしづらくなります。

高齢者の介護施設も少なく、介護保険も無かった頃のことです。

脳梗塞で半身麻痺の80歳の男性。

最初に訪問した時は、床ずれもひどく、まるで胎児の様な格好で寝ていました。ここまで拘縮するとオムツ交換や着替えをするのも困難です。時々発熱し、その度に車イスに乗せて点滴に通っていました。介護の状況から見て、誤嚥性肺炎か沈下性肺炎だろうと思うのですが、このケースもエアーマットとギャッヂベッドを使用していました。介護をしている妻は小柄で高齢(80歳)で、おむつ交換がしにくいと言っていました。床ずれが軽快した頃を見計らって、日中はエアーマットの空気を抜き、夜だけスイッチを入れることを勧めました。幸いこの妻はとても献身的で賢い人だったので、力の要らない起こし方を覚えてもらって、5〜10分、1日に1〜2回ベッドの端に肩を組んで座っていてもらう様にしました。2〜3週間すると「この頃は熱が出なくなったし、点滴にも行かなくなった」と妻が気付いてくれました。「これは毎日起こして座らせる事の効果であり、奥さんの努力の賜物である」事を説明すると、その後は工夫して丸めた布団を支えにして座らせておき、(本人は自分では動かないから)その間にリンゴをすりおろしてきて食べさせるなど1日に30分から1時間くらい座位をとらせている様でした。そういえば股関節や膝が以前より柔軟になって脚を伸ばし易くなっているのが確認できました。妻としては、日々の介護をしながら手足が曲がって縮まっていく夫の姿を見ているのは怖かったそうです。起こして座らせることで、床ずれや肺炎を予防し、リハビリ効果も生まれたのです。

認知症で徘徊、転倒して骨折したお婆さん。

入院中から床ずれが出来ていたので、退院時にエアーマットを購入しました。全身に麻痺や拘縮は無く、週に2回の入浴を続けるうちに床ずれも治りました。介護がしにくいのでエアーマットを外したら柵につかまって一人で起き上がる様になり、元気になったと喜んでいたら、ある晩、家族はお婆さんがベッドの上で立ち上がっているのを見てビックリ。「普通のベッド柵では危険だ。これではおちおち眠っていられない。」と、家族は特別に柵を作りました。家族の努力には頭が下がりますが、その一方で大笑いしました。その柵はまるで“檻”。「これではいくらなんでも可愛そう。リハビリすると歩けるようになるかも知れないが、そうすると徘徊してまた転ぶかも知れないし眼が離せない。けれどベッドに手足を縛り付けておく訳にもいかない。」と、話し合いの結果もう一度エアーマットを使ってみる事にしました。するとベッドに立ち上がることは無くなりましたが、時々、床ずれ一歩手前の発赤が出来るようになりました。そこで、家族には1日に1〜2度はお婆さんをイスに座らせて食事をさせてもらう事にしました。手足を縛らず檻にも入れず、徘徊もせず床ずれも出来ないギリギリの妥協案です。エアーマットも使い方しだいと言う例です。

難しい理屈も、高価な介護用具も要りません。力の要らない起こし方を覚えましょう。生理学的に正しい座り方を学びましょう。毎日起こして座らせるだけでリハビリは地球の重力がしてくれます。そして介護上はるかに良い効果があります。20分座っていることが出来たら、ポータブルトイレが使用出来ますし、女手が二人あれば自宅のお風呂に入れてあげることも出来ます。1時間座っていたら食事も摂り易いし、車椅子で散歩にも行けそう・・・ですね。もしあなたが介護される立場になった時、あなたの周囲にはあなたを起こして座らせてくれる人が何人居ますか?