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* 特別養護老人ホーム *
その頃は介護施設も非常に少なくて“老人ホーム”は暗いイメージが伴うものでしたが、その中にあって、この施設は自由な雰囲気が漂う明るい施設でした。寝たきりのお年寄りばかりの大部屋で、各々ギャッヂベッドで上半身を起こして食事をしているのですが、何か異様な感じがします。私は食事介助をしながら、この異様な感じが何なのか考えていました。“窮屈そう・・・部屋が狭いわけでもベッドが狭いわけでもないのに・・・。Aさんは身体がずり下がり、Bさんは身体が捻れて、Cさんは膝が曲がって胸に付きそうな姿勢で、ベッドの片隅にちぢこまっている。そうか、食事をしている皆の格好が窮屈そうなのだ。”と気が付いて身体の位置を直しても又すぐ元の姿勢になってしまいます。食後にベッドを平らにして寝かせてみても胴体は微妙に捻れたまま、股関節と膝関節が伸びません。みんな両手は自由に動くのに下半身が拘縮・・・これはなぜ?こんな病気(症状)はそれまで経験がありませんでした。
* デイサービス *
この特養ではその頃にはまだ数少なかったデイ・サービスも有りました。
「ウォー。」悲鳴とも聞こえるような大声が施設内に響き渡りました。ストレッチャーで寝たまま連れて来られた人が寝たまま入れる機械浴に連れて行かれるところでした。“平泳ぎをそのまま仰向けにした様な格好”と表現したら想像して貰えるでしょうか。そんな格好でコチコチに硬直しているので、大の男が二人がかりでその人を持ち上げて運ぶのですが、それがとても痛そうであの大声を発するのです。“それにしてもスゴイ! 今は寝たきりの人でもこんな車で送迎が出来るんだ! 寝たきりになってもちゃんとお風呂に入れられるんだ! 便利な物がドンドン考案されて、これなら寝たきりになっても安心だ!”と感心したのは一瞬だけ。“ウーン、でも私はあんなコチコチになりたくないなあ・・・。どうしてこんな形で拘縮してしまうの? 何の病気なの?”と???が頭の中に広がりました。
* 在宅介護 *
5年前から寝たきりというFお婆さん。エアーマットを使用しても床ずれが治らないので、屎尿で床ずれが汚染しないように尿カテーテルを留置しています。意識障害があり、コミュニケーションも経口摂取も不可能で、鼻からは流動食を注入する為の管も入っています。骨粗しょう症で、オムツを替えるのに身体を動かすだけで骨折したり脱臼したそうです。不随運動で手や頭部がピクピク動くのでまた脱臼しないように、両手を紐で結わえてありました。5年前からいきなりこの状態で在宅介護を続けているとは思われないのですが・・・。
パーキンソン病というKお婆さんは、まるで胎児の様な格好で寝ていました。両膝は揃えたままコチコチ。股関節が開かないのでおむつ交換さえ困難です。エアーマットとギャッヂベッドを使用していますが、床ずれが治りません。
施設でも在宅でもエアーマットだ、ギャッヂベッドだ、機械浴だ・・・と、いろいろ便利な機器が使用されているのですが、そこで介護されている人の姿を見て愕然としました。「もしかして便利なはずの介護機器がこのような症例を作り出しているのではないか? 私には勉強すべき事がまだまだ沢山ある。後手後手の“寝たきりの介護”を学ぶより、“寝たきりにしない介護”を学ぶべきではないか。一緒に勉強する仲間が欲しい。」と思いました。そしてそのチャンスは意外に早く訪れました。
ここで結論を先に言いましょう。「“寝たきり”は“寝かせきり”から作られる」のです。介護機器を導入して介護が楽になったと思うのは最初のうちだけで、間違った使い方をすると(“介護機器の操作の間違い”と言う意味ではなくて、“介護の仕方の間違い”という意味。) 行き着くところは前記のような姿なのです。拘縮が著しくなって益々介護が困難になります。それを防ぐためには、“寝かせきりにしない介護”を、身近に居る人が心得ている事が一番ではないかと思うようになりました。なぜなら、自分では寝返りも起き上がりも出来ない“寝たきり”の人の中にも、介助して起こしたら座っている人は多いのです。さらに、自分で立ち上がることが出来ない人の中にも、介助して立たせてしまえば、つかまって歩く人が結構あるのです。『起こし方』と『立たせ方』を介護者が心得ているだけで、前記のような症例はずっと少なくなるのです。だからといって、日々の介護をしている人に対して、『あなたの介護の仕方が間違っていたから、寝たきりになったのよ。』とは、決して言わないで下さい。
介護の大変さはいずれ述べる事にして、取り敢えず、“介護は力仕事だ”という思い込みを捨てて、“眼から鱗”の介護技術を一緒に学んでみませんか。
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